●作品の舞台は橋場町〜香林坊。主人公は、浅野川界隈にこだわり、橋場町の一室で幻のタウン誌「海市」の再建に情熱を燃やす編集者です。商業都市を目指して変貌を続ける片町・香林坊・犀川地区に対し、古い町並みや昔ながらの情緒を残す街づくりをしている尾張町・主計町・浅野川地区がメイン舞台でした。
●五木氏は結婚・ロシア行のあと、昭和40年から44年まで、奥さんの実家のある金沢に居を構えられました。昭和42年、直木賞をとられたときは、現在も香林坊109の裏手にある喫茶ローレンスで友人たちと朗報を待っておられたとか。そのお店は、当時から(今も)、地元の作家志望の方や文化人がよく集まる場所のようです。
●「金沢望郷歌」をはじめとする金沢を舞台とする作品は、氏の金沢時代の体験を元にされています。私が金沢にいたのは昭和42年3月までの高校〜進学浪人の時で、中学時代とは異なり、比較的自由に街中を歩き回れた時期でした。
●さすがに喫茶ローレンスは知りませんでしたが(店のすぐ近くが小学校への通学路だったので、このあたりの雰囲気は覚えています)、氏の金沢を舞台にした他の作品で描かれている場所も含めていろいろ思い当たる場所が多く、ちょうど同じ頃に同じような場所を私も徘徊していたらしいのです(ひょっとして道ですれ違っていたかも)。
●そのことを知ったのは金沢を離れて10年後、偶然氏の小説やエッセイを読み始めてからのことでした。世代は異なるものの、同じ空気を吸っていたことを知って特別な親近感を覚え、以来、人知れず五木ファンの片隅に加えさせていただいています。
●はからずも右上の写真は小雨の中の主計町ですが、なんとなく五木作品のイメージに合いそうです。すぐ近くにある東の茶屋町は何度も氏の作品に出てきます。金沢を旅する前に何か一冊読まれていくと、楽しみが倍増するのではないでしょうか。
純喫茶ローレンス
五木寛之が原稿を書きに通っていた喫茶店。店内には直木賞受賞時に連絡を受けた年代物の電話機と、記念写真が飾ってあります。

風に吹かれて
著者:五木寛之、出版社:ベストセラーズ、本体価格:1,800円
金沢を舞台にした作品
○「古い街の新しい朝」(昭和43年/随筆「風に吹かれて」所収)兼六園
○「内灘夫人」(昭和43〜44年)内灘
○「朱鷺の墓」(昭和43〜51年)ひがし茶屋街・兼六園
○「聖者が街へやって来た」(昭和45年)香林坊・中央公園
○「小立野刑務所裏」(昭和53年)旧小立野刑務所裏
○「浅の川暮色」(昭和53年)主計町茶屋街
○「風花の人」(昭和54年)尾山町
○「金沢望郷歌」(昭和61〜平成元年)橋場町・香林坊
○「ステッセルのピアノ」(平成5年)旧偕行社
ステッセルのピアノ
著者:五木寛之、出版社:文藝春秋、本体価格:485円
五木寛之ファンサイト
○五木寛之の金沢を歩く
○五木寛之作品リスト・地方が舞台の作品
○ようこそ『五木寛之 図書館』ホームページへ
他 多数